昨日も白鳥を探しに行こうと目的地に向けて走っていると、頭上にいくつかの白
い点が現れた。 しばらく見ているとはるか上空を飛ぶ白鳥であった。 その後にも十数頭の群が南に向けて飛んでいってしまった。 きっと滞在限界点を察知
して移動を始めたのだろう。
目的が無くなってしまったので急遽温泉を探すことにした。 ナス・バレーは250年ほど前に火山が噴火して2千名のニスカ先住民が亡くなったという、カナ
ダで最も新しい噴火口がある。 溶岩による堰止湖ラバ・レイクがあり、大河ナス河の流路も5キロほど北に押しやられたほどの大量の溶岩が苔むして残ってい
る。 この溶岩地帯の中をニスカ・ハイウェイが20kmほど貫通している。
火山帯のためナス・バレーにはいくつかの温泉があるのだが、一箇所を除いてはどこも容易にたどり着くこととはできない。 この容易な一箇所を探すことにし
たのは、ハイウェイから徒歩10分と聞いていたからであった。 以前キンコーラスに住んでいた頃、対岸の小さな川沿いにあると聴かされて探しに行ったこと
があった。 カヤックで1時間漕ぎ、路無き小川に沿ってほぼ崖を直登したが探すことができなかった。 翌年にどの川かを良く確かめて、4万分の1の地図と
GPSを使いやっとの思いで見つけたのだが、ずいぶん誰も訪れていなかったらしく水溜りの中にはサンショウウオが居るだけで、温泉と分かるようなものはさ
び付いたシャベルがいくつか立っていたことだけであった。 第二次世界大戦前には多くの日本人漁業従事者がこの辺りで鮭漁をしていたために、その温泉には
立派なヒノキ風呂があったそうだ。
ハイウェイ上に車で通りがかると硫黄の匂いがする場所があり、たまに車が停まっているのを見かけた所を探ることにした。 入り口が崖になっていて昇らなく
てはならないので見当ハズレかとも思ったのだが、ほんの少し昇るだけで獣道のような踏み跡が見つかった。 原生林の中では空が見えずGPSも使えないので
地形を覚えながら進む。 すると本当に10分で湯気が見え始めた。 とても原始的な砂利で堰き止めてあるだけの温泉であった。 まるで秋田の乳頭温泉か北
海道各地の鄙びた温泉に来たかと錯覚するほどである。